いい事って突然やってきます。
それが「下町のナポレオン」をにらみ続けていたおかげかどうかは分かりませんが、あるネットオークションで見つけてしまったのです。私の難しい注文にこたえてくれそうなオートバイ。
モトグッツィ V11 SPORT。イタリア製のオートバイです。
たしかに「最後のオートバイ」というテーマならば、外国車ももちろん視野に入っていましたが、よもやモトグッツィとは…。
モトグッツィ社は1950年代に隆盛を極め、レースでも華々しい成績を収めていたイタリア最古のオートバイメーカーです。しかし、やがて他のメーカーの台頭と共にその力を失い、数度の経営危機を迎えながらもしぶとく生き続けているというのが現状です。もちろん、生き続けられるだけの強い魅力があるのもまた事実で、特に個性の固まりのようなそのエンジン、高速レンジでの高い操縦安定性など、マニアックなオートバイとしてファンが多い事でも有名です。
現行車種であるV11においても、そのエンジンは30年来、基本的な構成を変えずに守り続けられているモトグッツィのアイデンティティとも言える、OHV縦置きVツインを搭載。
イタリアの速度無制限のハイウェイ「アウトストラーダ」を一日1,000km程度を二人乗りで快適に移動することができる、超高速ツーリングマシンなのです。
20代の頃一度だけ、モトグッツィの70年代後半のモデルに、ほんの少しの距離ですが走らせたことがありました。
あるグループのツーリングに参加されて来ていたのですが、興味津々見つめている私に、持ち主の方が「乗ってみる?」と言ってくれました。他人のオートバイに乗るのはあまり好きではないのですが、この時は好奇心が勝りました。
雑誌などでは、アクが強くて乗り手を選び、好き嫌いがハッキリ分かれるオートバイだと伝えられていました。
たしかに個性的なエンジンフィーリング、特に回転を急激に上げると、クランク軸や巨大なフライホイールの慣性モーメントによって車体を大きく右に傾けようとするクセはまるで生き物のような感じで、これまで体験したことのないものです。そして、ある程度の速度で体に風圧を受けて初めてリラックスできるライディングポジションなど、聞きしにまさるものだと思いました。しかし、人がいうほど乗りにくいものではなく、以外に普通に乗れるものだなぁと思いました。
そのことを持ち主に伝えると、なぜかとても喜んでくれたことが強く印象に残っています。
さて、入札してから数日間は価格も上がる気配がなかったのですが、やはり終了間際にはジリジリと加算されていく価格を恨めしげに見つめながらも、予想した金額を少しオーバーしたところで落札しました。
しかし、今になって思えば、中古車、それも一昔前までトラブルのデパートのようにいわれていたイタリア車を、現物を見ないままオークションで落札するなど、明らかに「どうかしている」としか言いようのない愚行です。もう二度と、こんな「どうかしている」ことなど決してしないでしょう。2週間ほどして、V11はやって来ました。
写真では見ていたものの、そのボリューム感にしばし開いた口がふさがりませんでした。
「デ、デカイつーか、太いつーか、牛ぐらいの大きさがあるんじゃないの!?」
まあ、たしかに15年のブランクがあり、普段は超軽量なDREAM 50に乗っていたからだとしても、排気量1,000ccクラスのオートバイとしては大きい、いや太い印象であります。そばで見ていた女房や子供たちも近寄ってきません。しかし、ここでひるんでいては男のメンツが立ちません。まだナンバーが付いていないので、走らせるわけにもいきませんが、押してみたり跨ってみたりしているうちに、何ら問題がないと分かりました。タンクやシート後端部分のボリュームはあるのですが、座るべき場所は適度に絞り込まれているし、ハンドルも遠からず近からず、好みとは言い難いですが、リラックスできるライディングポジションだと感じました。
けれど、記憶の中にあったモトグッツィのイメージとはかけ離れた佇まいです。
では、いよいよエンジンを始動させてみます。キーを始動可能な位置にひねってやると、燃料ポンプが起動し、インジェクションユニットにガソリンを圧送する音が聞こえます。それからセルスターターボタンを押してやると、数回のクランキングで大きなガソリンタンクよりもさらに横に張り出した左右のシリンダーの中に火が入りました。少し湿り気を感じる排気音は紛れもなく、あの日聞いたモトグッツィの音です。アクセルを少し煽ってやると、重い車体を右に傾けようとします。その動きは心の準備がなければそのままオートバイを倒してしまいそうなほどに思えました。
図太く数えられそうなほどのロービートは、とてもアウトストラーダをかっ飛ばせるようには思えませんが、これこそがモトグッツィの魅力なのです。決してライダーを急き立てることなく、それでいて十分なパワーとトルクを発揮する、まさに長距離を走るために磨き上げられた特性なのでしょう。
ビート感たっぷりの排気音、そして力強い振動で車体のいろんな部分が、ブルブルとそれぞれ違うビートを刻んでいる姿が生き物に見えてきて、そう、まさに牛が体のあちこちをピクピクさせる動きそのものという感じで(私の実家では牛を飼っていました)、いっぺんに好きになってしまいました。
オークションの情報では走行距離は少な目に申告していたことは全体のコンディションですぐに分かりましたし、消耗して交換が必要なパーツがあることも見て取れましたが、金額を考えるとまずまずの買い物だったと思います。いや、何より存在そのものが面白いと思えるオートバイに巡り会えたことが、素直にうれしく感じました。
それから数日後、大きな問題がないかを見てもらうためと部品交換のためモトグッツィ専門店にドック入り。
若干の問題もありましたが、概ね状態の良い個体であるとお墨付きもいただき、ナンバーも取得。
かくして、モトグッツィとのオートバイライフが始まりました。
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最後のオートバイ。
イタリアの種牛。
いぢれるところ、無いじゃん。
悲劇は、突然に。
モウ、種牛って呼びません。
春一番。